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青森地方裁判所 昭和39年(行ウ)10号 判決 1965年9月13日

原告 鳴海彦一

右訴訟代理人弁護士 寺井俊正

被告 金木町嘉瀬財産区議会

右代表者議長 平川久次郎

右訴訟代理人弁護士 小山内績

主文

被告が昭和三八年一二月二三日被告議会の議決に基づき同三九年七月三日付通知書を以ってなした原告を除名する旨の懲罰処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項と同旨および「訴訟費用は金木町嘉瀬財産区の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は昭和三六年九月以来被告議会の議員でかつ議長であったが、被告は昭和三八年一二月二三日の臨時会で原告を除名する旨の議決をし、昭和三九年七月六日その旨を原告に通告した。その除名理由とするところは次の二点である。

(イ)  原告が昭和三八年九月一七日で議長を辞任して後任者と交替するという約束を履行しないこと。

(ロ)  前記臨時会において原告が何らの理由もなく閉会を宣したこと。

二、しかしながら、右除名議決には次のようなかしがあり、違法であるから取り消されるべきものである。

(一)  まず被告主張の除名理由となるべき事実は存在しない。

(1)  原告の議員としての任期は四年であり、議長の任期は議員のそれによるのであるから、原告の議長の任期は昭和四〇年九月までである。任期半ばに辞任せよという被告の言分こそ違法である。

(2)  昭和三八年一二月二三日の被告議会臨時会に付議された案件は、第一号議案財産区官行林地内材積調査の結果報告の件、第二号議案議長交替選任の件であった。原告は右臨時会において議長としての職務を執行したが、右第一号議案が承認された後、第二号議案については前記(1)に述べた理由により、これを審議することの無意味である所以を説明した上で閉会を宣告したものである。原告の執った右の措置にはなんらの不当、違法の点はない。

のみならず、議長交替選任の議案は、議員にのみ提出権が認められているところ、右第二号議案は被告議会の議員から提出されたものでなく、金木町嘉瀬財産区管理者たる金木町長から提出されたものであるから、同議案は手続上においても違法であるといわなければならないから、原告の前記措置はこの点からしても正当である。

(二)  被告の除名議決は、手続上次のようなかしがある。

(1)  前記臨時会の閉会後議員の若干名がなんらかの決議をしたとしても、それは被告議会の議決たるの効力を生ずるものではない。

(2)  被告議会の会議期則第六六条によれば、議員懲罰の動議は議員三名以上から提案されなければならないのに、本件の場合は議員一名の発議によって懲罰の動議を議題としたものであって、右は懲罰動議発議の要件を欠くものである。

(3)  また右同条によれば、懲罰動議が提出されたときは特別委員会を設けて、その審査に付さなければならないのに、右委員会を設けず、更に原告の弁明をきくこともなく直ちに決議をしたのは違法である。

三、本訴は期間の不遵守により不適法であると被告は主張するけれども、その理由のないことは、次に述べるところから明らかである。

(一)  原告が本件除名処分につき昭和三九年七月七日青森県知事に審決の申請をし、同年九月二九日期間経過後になされた不適法のものであるという理由で申請却下の裁決がなされ、該裁決書が翌三〇日被告に交付されたことは、被告主張のとおりであるけれども、同知事は原告の適法な審決の申請を受けたにかかわらず誤ってこれを却下したものであって、右裁決は違法である。けだし

(1)  除名処分は一の行政処分であるから、内部的にその議決があったのみでは足りず、これを外部に表示するため告知を必要とし、告知をまってはじめて効力を生ずるものといわなければならない。然るに本件除名処分の通告が原告になされたのは昭和三九年七月六日であるから、期間経過後になされた不適法なものとして原告の申請を却下した前記裁決は法の解釈を誤ったものである。

(2)  仮に本件除名処分が昭和三八年一二月二三日にその効力を生じたものとしても、原告は、昭和三九年七月六日の通告書の交付によって除名処分があったことを知ったのである。故に地方自治法第二五八条により準用される行政不服審査法第一四条第一項ただし書にいうやむを得ない理由があるものとして、本件においては期間の不遵守は問われないものというべきであり、この点においても前記裁決は誤りである。

(二)  本件除名議決は、昭和三八年一二月二三日被告議会の臨時会閉会後になされたもので無効である。原告は本訴において無効宣言の趣旨で右議決の取り消しを求めているのであって、無効行為の取り消し訴訟は、出訴期間の制限に服しないものである。よって被告の出訴期間経過後の不適法な訴であるとの主張は理由がない。

原告訴訟代理人は以上のように述べ、証拠として≪省略≫

被告訴訟代理人は、本案前の申立として、「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、

原告の本件訴は、次の理由により不適法である。すなわち、

(一)  原告は昭和三九年七月七日本件除名処分について青森県知事に審決の申請をしたところ、同年九月二九日期間経過後になされた不適法なものであるという理由で申請却下の裁決がなされ、翌三〇日右裁決書が原告に送達された。そうすると原告は本件除名処分について裁決を経ていないことになる。

(二)  右が理由なしとするも、原告が本件除名処分のあったことを知ったのは、昭和三八年一二月中、遅くとも昭和三九年三月頃であるから、本件訴は出訴期間経過後に提起されたものである。

と述べ、本案に対する申立として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告の主張事実第一項のうち、原告が昭和三六年九月以来被告議会の議員でかつ議長であったことおよび被告議会が昭和三八年一二月二三日の臨時会において原告を除名する旨の議決をしたことは認める。

被告議会から原告に対する除名の通告は、昭和三九年一月八日および同年二、三月頃、被告議会副議長木下留蔵からなされているのであって、同年七月三日付の通告書を同月六日原告に交付したのは、これを確認する意味を有するにすぎない。

また除名理由は、

(イ)  原告の態度および言動は猛獣に等しく議員全員が協力できない。

(ロ)  昭和三八年一二月二三日被告議会の臨時会において、理由なく閉会を宣告したことは議会を無視し、議員を侮辱したものである。

ということである。議長の交替は道義上当然のことである。というのは、昭和三六年九月当時被告議会の議員全員の協議により、二年で交替することに話がまとまり、前期を原告、後期を平川久次郎が勤めることにきまっていた。原告はその約束を破って平然としているばかりか、同僚議員に暴言を吐いたりしているのである。

二、原告は本件除名処分が違法であるというが、被告はその正当である理由を以下に述べる。

(一)  除名理由となる事実は次のとおりである。

(1)  原告の議員としての任期が四年であることおよび議長の任期は議員のそれによるものと法律に定められていることは原告主張のとおりであるけれども、前述のとおり原告は二年交替の確約を無視し、他の議員らが協力できないような態度、言動に出ておるのである。

(2)  昭和三八年一二月二三日被告議会の臨時会が開かれ、これに原告主張のような議案が付議されたことおよび第一号議案が承認されたことは原告主張のとおりであるが、原告はその直後第二号議案については承服できない旨を発言しただけでなんらの理由なく閉会を宣言して退場したのである。原告のこのような措置は、もとより違法であって右閉会宣言は無効であるばかりでなく被告議会を無視し、議員を侮辱するの甚しいものである。

また右第二号議案は、被告議会の木下留蔵外四名の議員から会議に付議すべき案件として金木町長宛臨時会招集の請求があったものであるから、手続上何ら欠けるところはない。

(二)  本件除名処分は、その成立の手続においても正当であって、原告のいうようなかしは存しない。

(1)  昭和三八年一二月二三日の臨時会において第一号議案の審議が終った後、原告はなんらの理由もなく閉会を宣言して退場したが、右閉会宣言は無効であることは前述のとおりであるから、地方自治法第一〇六条第一項に該当するものとして、被告議会の副議長が議長の職務を行い議事を進行し、議員鎌田稲辰、同平川久次郎の発議によって、原告の懲罰の動議を議題として、出席議員五名全員の同意で原告除名の適法な議決がなされたものである。

(2)  被告議会には原告主張のような会議規則はない。従って議事の運営は地方自治法の規定によるべきものであるが、同法第一三五条第二項によれば、議員懲罰の動議を議題とするに当っては、議員の定数の八分の一以上の者の発議によらなければならない、と規定されているところ、被告議会の議員の定数は八名であるから、前記(1)に述べたように議員二名の発議による懲罰動議は適法であり、原告のいうが如く懲罰動議発議の要件を欠くものではない。

(3)  同法同条第三項によれば、除名については議員の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意が必要とされるところ、当時被告議会の議員は七名(一名死亡欠員)であったから、五名の議員が出席し、全員の同意でなされた本件除名議決は有効である。また原告の弁明をきかなかったのは違法だというが、同法第一三七条によりその弁明をきく必要はない。

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は失当である。

被告訴訟代理人はこのように述べ、証拠として≪省略≫

理由

一、まず被告の本案前の主張について判断する。

(一)  昭和三八年一二月二三日被告議会において、原告を除名する旨の議決がなされたことは当事者間に争がない。

(二)  被告は、原告の本件訴えが訴願前置の要件を具備しない不適法なものであると主張するけれども、右訴えにつき訴願前置の要件を定めた規定は存しないから、被告の主張は理由がない。

(三)  次に、本件訴えにつき出訴期間の遵守の有無を検討するに、被告議会が昭和三九年七月六日原告に対し同月三日付の除名通知書を交付したことについては、当事者間に争がなく、証人田中長衝衛門、成田岩蔵、今勘七の各証言並びに原告および被告代表者平川久次郎各本人尋問の結果によれば、次のような事実、すなわち、本件除名議決後事態の成り行きを憂慮した金木町長は、原告と被告議会側との間をあっせんして、昭和三九年一月初め頃から同年三、四月にかけて、数回にわたり話合いの機会を設けたこと、その結果原告が議長を辞任する代りに被告議会は除名の議決を取り消すことということに一応話がついたけれども、その後原告がまた意をひるがえしたため、もはや妥協の余地なしと見た被告議会は、前記除名通知書を右除名議決の場に居合わせていなかった原告に交付したものであることが認められる。原告本人の供述中右認定に反する部分は信用できない。

右認定事実によれば、原告との間に妥協の成立することを期待した被告議会は、除名の議決後も直ちにこれを原告に通告することをしないで、原告の出方を待っていたもの、すなわち、原告が議長を辞任するならば除名処分は取り消すし、原告があくまで議長を辞任しないならば、除名処分を強行しようという考であったことが認められる。

ところで、議会の議員に対して行う懲罰処分が一の行政処分であることは勿論であるが、これが議決の形態をとるのは、右懲罰の意思決定をなす処分庁がたまたま合議体の機関であるからにほかならない。すなわち懲罰の議決そのものは、処分庁である議会の単なる内部的な意思決定にすぎず、この議会の意思決定としての議決の効力は、議案の可決と同時に生じ、この点においては、議員懲罰の議決たるとその他の議決例えば議会解散の議決たるとを問わないのである。しかしながら、懲罰の議決によって議員を懲罰するときすなわち特定人に対して一の行政処分として機能するときの議会の議決は、議会の内部的な意思決定である懲罰の議決を要素とするとはいえ、これと区別されるべきものであるから、懲罰の議案の可決と同時にその効力を生ずるものと直ちに解することはできず、他の特定の相手方のある一般の行政処分におけると同様、その相手方に表示されるまでは、行政処分としての効力を生じないものというべきである。これを本件についてみると、前記認定のとおり、処分の相手方である原告不在の場で懲罰の議決がなされ、その後も被告議会において前記除名通知書交付に至るまで原告に右議決を通知することを意識的にさし控えていた段階では、懲罰処分が原告に表示されたものと認められないから、その効力を生ずるに由なく、そして原告がその間にたまたま右議決内容を了知していたことがあるかどうかによって、右の結論を異にするものでないから、本件除名議決が原告に対する行政処分としてその効力を生じたのは、前記除名通知書の交付により、右議決が原告に表示された昭和三九年七月六日であるといわなければならない。そうすると、本訴は、出訴期間内に提起されたものであるから、被告の主張は、理由がない。

二、そこで本案について判断する。

(一)  まず除名理由となる事実の存否について考えてみると、被告主張の除名理由は必ずしも明らかではないが、(1)他の議員らが協力できないような言動がある。(2)昭和三八年一二月二三日の臨時会において議長として執った行動は、甚しく被告議会を無視し、議員を侮辱するものである、ということにある。

(二)  右(1)の事由は、その表現において抽象的であるが、具体的には前記認定の諸事実に弁論の全趣旨を総合して認められる次の事実、すなわち被告議会においては、昭和三六年九月原告を含む議員全員の協議により、議長を二年で交替し、前期を原告、後期を訴外平川久次郎とすることを定め、原告が前期の被告議会の議長に就任したが、右協議で定めた交替の時期になっても原告が議長の職を辞める気配がなかったので、それまで平穏裡に経過した被告議会の議員間に紛議を生じ、他の議員の非難が集中しているにもかかわらず、右協定を無視して居坐りを図る原告の態度を指すものと考えられる。ところで、議員の任期によるものと定められている議長の任期を協定による本人の辞職により分割して、議長の交替を図ることは、法律上不許のものとはいえないけれども、これに実際上種々の弊害を伴うことは、見易い道理である。しかし、議会運営上かかる措置が必要やむをえないものとされる事態の生ずることも否定できないから、これを一概に不当として排斥することは困難であろう。したがって、その選択を議員の高度の政策的な判断に委ね、その履行を選良としての議員の良識のみに依らしめているものとして、右議長交替についての議員間の協定をいわゆる紳士協定として評価することにより、右協定の違反者に対する制裁は、挙げて法外の非難に託されているものとみるのが相当である。すなわち、前記協定を無視する原告の態度がひんしゅくすべきものであるとしても、右協定違反は、地方自治法二九六条三項により準用される同法一三四条に定める法律、規則、条例の違反と同視しうる余地がないものであるから、懲罰処分の理由となしえないものといわなければならない。したがって、被告主張の(1)の事由は、原告の除名事由に該当しない。

次に(2)についてみると、昭和三八年一二月二三日の臨時会において、原告が議長として議事を進行し、第一号議案承認後閉会を宣して退場したことは当事者間に争いがなく、証人成田岩蔵の証言並びに原告および被告代表者平川久次郎各本人尋問の結果によれば、原告は第二号議案には承服できかねる旨の発言をした後直ちに閉会を宣したことが認められる。原告の執ったこのような行動は、もちろん違法であって、その責任は決して軽いとはいえないが、原告の右事犯に対する懲罰として除名処分を以って臨むのは苛酷にすぎ、結局本件除名決議はその裁量を誤った違法なものであるといわねばならない。

三、よって原告の本訴請求は除名手続の当否について判断するまでもなく、正当として認容すべきものであるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上守次 裁判官 井上清 森谷滋)

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